コンデンサを正しく安全にお使いいただくための
コンデンサ特性の基礎知識 ~もれ電流~

はじめに

コンデンサは電気回路や電子回路において最も基本的で重要な部品の一つです。回路設計、メンテナンス、品質を担うエンジニアの皆様にとって、コンデンサの特徴や特性に関する知識を習得することは、たいへん重要です。

コンデンサにはさまざまな特性がありますが、コンデンサが使われる電気的条件や環境によって変化するため、仕様書やデータシートなどの限られた媒体から的確に特性を把握することは困難です。コンデンサの特性を正しくご理解いただくことは、コンデンサを安全にお使いいただくことにもつながります。本編では、事例やデータを交えてコンデンサの特性の基礎知識をご説明します。

目次

~もれ電流~

もれ電流(リーク電流, leakage current)とは、電子回路において本来電流が流れない絶縁されたところから漏れ出るように電流が流れる現象です。回路の誤作動や消費電力の増大、発熱などの問題を引き起こす原因になります。微細な回路や素子からなる半導体ではもれ電流が大きな問題となります*01

コンデンサにももれ電流があります。ただしこれには絶縁物である誘電体を通り抜ける電流だけでなく、誘電分極に起因する電流が含まれます。また湿度や異物などで端子間の絶縁性が低下し、誘電体をパイパスして電流が流れる場合があります。本章では、もれ電流のメカニズムと性質、注意したいことがらなどをご説明します。

コンデンサを流れる直流電流

絶縁抵抗ともれ電流

コンデンサの絶縁性を表すパラメータには「絶縁抵抗」(Riso)と「もれ電流」(ileak) があります。前者はもれ電流が非常に小さいフィルムコンデンサやセラミックコンデンサに用いられ、後者はもれ電流が大きい電解コンデンサで使われます。もれ電流と絶縁抵抗の関係は、次のような簡単な式で表されます*02

もれ電流は、容量に対して並列に接続された絶縁抵抗(IR)と考えることができるため(図1)、電流ではなく抵抗(もれ抵抗)と言われることもあります。

図1 容量と絶縁抵抗の模式図
図1
容量と絶縁抵抗の模式図

理想的なコンデンサを流れる直流電流

理想的なコンデンサ C0 を電源 V0 から抵抗 R0 を介して充電すると (図2)、充電電流 icharge(t) は時間とともに減少し、コンデンサの端子間の電圧 v(t) は指数関数的に増加します(図3)。

図2 理想的なコンデンサの充電
図2
理想的なコンデンサの充電
図3 コンデンサの充電における電圧と電流の時間変化
図3
コンデンサの充電における電圧と電流の時間変化

充電電流 icharge(t)、充電電圧 v(t) はそれぞれ式(02)、式(03)で表され*03 、充電開始時(t=0) の電流は電源電圧 V0 と抵抗 R0 の商になります。

充電は、v(t) = V0 になるまで続きます(平衡状態) 。τ0 は、式(04)で定義され、時定数と呼ばれます*04

R0 がキロオーム(kΩ)、C0 がマイクロファラッド (μF) のレベルであれば、τ0 はミリ秒(ms)のオーダーです。このとき(t = τ0 ) の電圧は平衡状態の63.2%、すなわち、v(t) = 0.632×V0 です。

v(t)が、V0に到達する時間は、式(03)を変形した式(05)を用いて計算できます。時定数の3倍の時間(t = 3τ0)では、電圧はV0の約95%になります。

同様に時定数の5倍、10倍では、

と計算できるため、充電電圧は、時定数の5~10倍程度の時間でほぼ設定電圧に到達すると考えられます。同時に電流も無視できるレベルまで小さくなります。

実際のコンデンサを流れる直流電流

次に実際のコンデンサに流れる直流電流を考えます。当社のアルミ電解コンデンサ(容量4700μF)に1kΩの抵抗を接続し、直流定格電圧を印加したとき*05 の、電流の挙動を図4に示します。充電を開始した直後に大きな電流が流れますが、瞬時に減少して一定になるように見えます。

図4 実際のコンデンサの充電における電流の時間変化
図4
実際のコンデンサの充電における電流の時間変化*06

図4の電流目盛(縦軸)を対数にすると、電流が大きく減少するのは、充電開始から数十秒で、その後電流はゆっくりと減少することがわかります(図4a)。

図4a 実際のコンデンサの充電における電流の時間変化
図4a
実際のコンデンサの充電における電流の時間変化
(図4 の電流目盛(縦軸目盛)を対数にしたグラフ)

図4aの時間軸(横軸)を対数目盛にすると、およそ35秒付近でプロットの変曲点が現れます*07 。その後1000秒(約17分)に渡って電流は直線的に漸減することがわかります(図4b)。

図4b 実際のコンデンサの充電における電流の時間変化
図4b
実際のコンデンサの充電における電流の時間変化*08
(図4 の電流目盛(縦軸目盛)を対数にしたグラフ)

このように数十秒から数百秒に渡って電流が緩やかに減少する傾向は他のコンデンサでも見られます。図5は、セラミックコンデンサを充電したときの直流電流と時間との関係を示したデータです*09 。アルミ電解コンデンサより容量の小さいセラミックコンデンサでも同様の挙動が見られます。

図5 セラミックコンデンサの充電における電流の時間変化
図5
セラミックコンデンサの充電における電流の時間変化

吸収電流

コンデンサを充電する過程で時間とともに電流がゆっくりと直線的に漸減する現象は、誘電体が電荷を吸収する過程として説明することができます。

第2章 インピーダンス編で述べたように、実際のコンデンサは、容量だけでなく抵抗成分やインダクタンス成分が直列もしくは並列に寄生しています(図6)*11。また誘電体は電圧に対してさまざまな挙動を示します。誘電体は電気的に極性のある要素(双極子)を含んでおり*12、外部から電界をかけると電界の強さに応じて双極子が整列する傾向があります。その後、時間が経過すると双極子が鎖状に整列して、誘電体材料は分極し電荷を蓄えた状態となります(図7)。

図6 実際のコンデンサの等価回路(4素子モデル)
図6
実際のコンデンサの等価回路(4素子モデル)
図7 電圧印加がないときの双極子の向き(左)と電圧が印加されて整列した双極子鎖(右)
図7
電圧印加がないときの双極子の向き(左)と
電圧が印加されて整列した双極子鎖(右)

双極子が外部電界に対して反応する速度は緩和時間と呼ばれます。この緩和時間は、電子に依存する双極子では数秒から数十秒、大きな分子複合体では数時間にも及びます。すなわちこの緩和時間に応じて誘電体に電流が流れ続けます。この電流は吸収電流や分極電流とも呼ばれ、式(08)の時間のべき乗関数で近似的に表すことができます*13, *14, *15

ここで、iabs (t) は時間t における吸収電流の関数、An は温度に依存する定数です。通常のコンデンサに使われる誘電体において、n は0.3から 1.2の値をとります。図4b, 図5のデータから各コンデンサの n の値を求めると、表1のようになります。

表1 各コンデンサの吸収電流のn
表1 各コンデンサの吸収電流のn

吸収電流 iabs (t) は誘電体の誘電損失 ε"(f) と密接に関係します。この関係はHamonの近似*15を使って式(09)のように表すことができます。

ここで、f は周波数、ε"(f) は周波数f (s-1 :時間 t の逆数)における誘電損率、C0 は静電容量、Vは直流印加電圧です。iabs(0.1 / f ) は、t =0.1/ f [秒]における吸収電流です。たとえば、f = 0.1c/sの ε"は t= 0.1/f = 1[秒]における電流値から式(09) を用いて計算できます。

すなわち、吸収電流iabs (t) は誘電体の分極に使われ、時間 t だけでなく容量Cと電圧 V にも依存します。このことから、iabs (t) は以下の近似式に書き換えることができます。

コンデンサのもれ電流とは

図5において容量の小さいコンデンサ (0.022 μF 50V) は、充電開始後約100秒(約1.7分)で時間に依存しない定常電流が流れるようになりました。これは充電電流や吸収電流とは異なり、電荷の蓄積を阻害してエネルギーの損失を引き起こす電流です。これを「もれ電流 ileak 」とよびます。ただし、もれ電流には以下のような要素があります。

  1. 電子が誘電体層のバルクを伝導することによって生じる固有の電流
  2. 誘電体のクラックや剥離などの構造的・機械的欠陥によって生じる欠陥に関連する電流
  3. 誘電体を介さず電極間をバイパスする電流

前項で述べたように、吸収電流を含まない純粋なもれ電流を正確に計測するには、充電に十分な時間をかけて、測定された電流が真のもれ電流であることを確認する必要があります。しかし室温かつ定格電圧では、測定に何時間もかかることがあります。

このため、もれ電流を計測するための充電時間として、IEC規格ではコンデンサの種類により1分または5分、MIL規格では2分以上と規定しており、コンデンサメーカはこれらに準じたもれ電流規格を設定しています。

このためコンデンサメーカが示すもれ電流は、真のもれ電流でなく吸収電流を含んだ電流であることに留意する必要があります。

コンデンサを流れる直流電流には3つの要素がある

以上のことから、実際のコンデンサを流れる直流電流は、充電電流と吸収電流、およびもれ電流の3つの要素から成り立っています。それぞれの要素の役割と特徴を表2にまとめました。

表2 コンデンサを流れる直流電流の要素
表2 コンデンサを流れる直流電流の要素
図8 コンデンサを流れる直流電流の時間変化(模式図)
図8
コンデンサを流れる直流電流の時間変化(模式図)

式(02), 式(10)を用いて、コンデンサを流れる直流電流 i(t) を数式で表すと式(11)のようになります。

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もれ電流の性質と注意したい事柄

電圧特性(I-V特性)

印加する電圧が大きいほどもれ電流は大きくなります。定格電圧を超えるともれ電流は急激に上昇します。図9に当社のアルミ電解コンデンサおよびフィルムコンデンサのI-V特性を示します。

図9 当社コンデンサのI-V特性の例
図9
当社コンデンサのI-V特性の例

通常、コンデンサのI-V特性は、電流を対数目盛、電圧を通常目盛で表しますが(図9)、異なる座標でプロットすることで電子伝導のモデルを推定することが可能です。

電極間をバイパスせずに誘電体を通過する電流は、絶縁体に金属電極から注入される電子伝導に関係することが確認されています*17, *18。電子伝導のモデルについてはさまざまな見解がありますが、代表的なものとして、ショットキー放出形、プール・フレンケル形、空間電荷制限形 などのメカニズムが提案されています。

電流を対数、電圧を平方根でプロットするショットキー座標*19, *20, *21 、電流を電圧で割った値の対数[ln(I/V)]と電圧の平方根(√V)を用いるプール-フレンケル座標*22, *23 、または両対数座標[ln(I) vs. ln(V)] での線形化*24, *25がモデルの証明として用いられます。そしてその傾きがモデルのパラメータとなります。これらのモデルには、活性化エネルギー Ea で特徴付けられるアレニウス的な温度依存性を含んでいるため、コンデンサのもれ電流の導電メカニズムを明らかにするには、より詳細なI-V特性とその温度依存性を検証することが必要になります。

温度特性

図10に当社製アルミ電解コンデンサおよびフィルムコンデンサのもれ電流の温度特性を示します。

図10 当社コンデンサのもれ電流の温度特性の例
図10
当社コンデンサのもれ電流の温度特性の例

もれ電流は正の温度特性を示します。また図11から明らかなようにコンデンサの種類によってその温度依存性は異なります。フィルムコンデンサのもれ電流は、アルミ電解コンデンサよりも温度に敏感で、温度が10度高くなるともれ電流はおよそ2~4倍程度増加します。アルミ電解コンデンサは低温領域よりも高温領域で大きくもれ電流が増加する傾向があります。

図10の結果からもれ電流のアレニウスプロットを行って、もれ電流の活性化エネルギー Ea を比較すると、図11のようになります。

図11 当社コンデンサのもれ電流のアレニウスプロット
図11
当社コンデンサのもれ電流のアレニウスプロット

フィルムコンデンサはアルミ電解コンデンサよりも活性化エネルギー Ea が3~4倍大きいため、フィルムコンデンサを高温で使用するときには注意が必要です*26。アルミ電解コンデンサの活性化エネルギーは、温度領域によって一様ではないため、低温と高温では導電機構が異なると考えられます。

もれ電流は温度と電圧で変化します。しかし実際のコンデンサにおいてその傾向を明確に定義し予測することは困難です。一方でもれ電流のI-V特性と温度特性を事前に把握しておくことは、コンデンサの選定だけでなく回路設計や品質保証においても極めて重要です。このため、必要に応じて、もれ電流の温度特性や電圧特性をコンデンサメーカにお問い合わせされることをお薦めします。

誘電吸収(DA)

コンデンサをフルに充電すると、長時間に渡って吸収電流が流れ、誘電体の中にある双極子が双極子鎖を形成します(図7)。コンデンサを放電して双極子鎖はもとの状態に戻すには応分の時間がかかります。ほとんどのコンデンサは充電したすべての電荷を放出することはありません。コンデンサが充電され、次に瞬間的に短絡され、最後に開放された状態になっているものと仮定します(図12)。短絡すると電極の電荷は放電して瞬時に消滅しますが、双極子鎖は電荷を捕獲されたまま整列しています。

コンデンサを開放すると、双極子鎖の整列が崩れ始めて、再び電極に電荷を誘起します。この電圧は、誘電吸収(DA : Dielectric Absorption)と呼ばれます*27。誘電吸収は,アルミ電解コンデンサやセラミックコンデンサだけでなく、タンタルコンデンサ、フィルムコンデンサ などでも観測されます。誘電吸収は主に誘電体材料自身の特性ですが、コンデンサの製造工程や電極材料の影響を受けることもあります。

図12 コンデンサの充電・放電回路と電圧の時間変化
図12
コンデンサの充電・放電回路と電圧の時間変化

MIL-PRF-19978では以下のように誘電吸収の測定を規定しています。①コンデンサを定格電圧で1時間充電し、②10秒間放電した後、③15分以内に最大電圧で10,000MΩ以上の入力抵抗を持つ電圧計で回復電圧を測定します。④結果は充電電圧に対する最大回復電圧の比として算出します。誘電吸収はフィルムコンデンサで小さく、とくにポリプロピレンやポリフェニレンサルファイド(PPS)を使ったフィルムコンデンサでは非常に小さい値です*28。一方で高誘電率系のセラミックコンデンサ*29やアルミ電解コンデンサ、タンタルコンデンサでは大きい値を示します 。

誘電吸収は、サンプルホールド回路、アナログ/デジタルコンバータ、アクティブフィルタなどのアナログ回路で、精度を低下させたり誤差の原因となることがあります*30 。また,電圧制御発振器(VCO)の電圧-周波数変換回路でも誘電吸収が誤差の原因となります*30 。高感度・高精度の用途における誘電吸収の影響を低減するための特別な補償回路を適用した例もあります*31 。表3に主なコンデンサのDAをまとめました。

表3 各コンデンサの誘電吸収
表3 各コンデンサの誘電吸収

もれ電流とセルフヒーリング

誘電体の欠陥部はもれ電流の原因になります。しかし欠陥部に充電電流が瞬間的に流れ込むと、電流のエネルギーが欠陥部を修復したり、欠陥部と電極層を遮断して、正常な状態に戻ることがあります。これをセルフヒーリング(自己修復)と呼んでいます。ただしコンデンサによってそのメカニズムはさまざまです。本項では、蒸着電極形フィルムコンデンサ、導電性ポリマーを電極に用いたアルミ電解コンデンサとタンタルコンデンサ、電解液を使ったアルミ電解コンデンサのセルフヒーリングを概説します。

蒸着金属形フィルムコンデンサ

電極に蒸着金属を使った蒸着金属形(メタライズド)フィルムコンデンサではセルフヒーリングがよく見られます。誘電体のフィルムには欠陥部や製造工程での機械的外傷部分があります。電圧を印加すると、それらの欠陥スポットに電流が集中して局所的なアークが発生します。このアークのエネルギーは欠陥の周囲の小さな範囲の蒸着金属層を蒸散させて、絶縁の低い欠陥個所を物理的に切り離します(図13)。このためコンデンサ全体は正常な状態に戻り、欠陥由来のもれ電流は減少します*32 。ただし、セルフヒーリングが頻発すると性能は徐々に低下していきます*33, *34

図13 蒸着形フィルムコンデンサのセルフヒーリング
図13
蒸着形フィルムコンデンサのセルフヒーリング

導電性ポリマー形アルミ電解コンデンサ、タンタルコンデンサ

電極に導電性ポリマーを使ったアルミ電解コンデンサやタンタルコンデンサでは、誘電体の欠陥スポットに電流が流れると、欠陥スポットがJoule熱により局所的に約数百℃まで加熱され、導電性ポリマーが導電性を失って絶縁化し、欠陥スポットへの電流を遮断します*35, *36

図14 導電性ポリマー形コンデンサのセルフヒーリング
図14
導電性ポリマー形コンデンサのセルフヒーリング

導電性ポリマー形アルミ電解コンデンサ、タンタルコンデンサ

フィルムコンデンサや導電性ポリマー形コンデンサのセルフヒーリングは、電流によるJoule熱で電極を絶縁化して、欠陥スポットを隔離する物理的なプロセスです。一方で電解液を使ったアルミ電解コンデンサでは、欠陥スポットが電解液中のイオンによって欠陥が修復される電気化学的なプロセスです。

すなわち、欠陥スポットを陽極酸化して新たな誘電体に作り替えるのです*3-37 。アルミ電解コンデンサの製造工程ではセルフヒーリングを利用して、もれ電流を安定にする工程があります*38

セルフヒーリングには、コンデンサのもれ電流を小さくする効果があります。しかしそのメカニズムはコンデンサの種類によって異なります(表4)。

表4 セルフヒーリング(SH)を利用したコンデンサの特徴
表4 セルフヒーリング(SH)を利用したコンデンサの特徴

セルフヒーリングはコンデンサの信頼性向上に欠かせません。しかし、欠陥スポットが修復困難など大きかったり、最高使用温度を超える高温、過電圧や大電流などの条件下では、セルフヒーリングが機能しない場合があるので注意が必要です 。

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アルミ電解コンデンサのもれ電流

アルミニウム電解コンデンサは、デシタル機器やパワーエレクトロニクス機器の性能に大きな影響を及ぼす重要な部品です。これらのアプリケーションにおいて、アルミ電解コンデンサの特性は機器の寿命と信頼性に直接影響します。本項ではアルミ電解コンデンサのもれ電流に焦点を当て、技術の概要、もれ電流の特徴、信頼性について解説します。

アルミ電解コンデンサの素子と誘電体の構造

アルミ電解コンデンサは、数Vから約700Vまでの電圧範囲と、1μFから約1Fに渡る広い容量範囲を持つ、小型で大容量のコンデンサです。コンデンサの素子は、陽極、誘電体、セパレータと電解液および陰極エッチングから構成されますが、粗面化された大面積の陽極が大容量を実現しています。陽極の表面に形成される酸化アルミニウムの誘電体は、陰極の電解液とほぼ完全に接触しています(図15)。

誘電体は、陽極酸化(アノード酸化)と呼ばれる電気化学的なプロセスによりアルミニウムの表面に極薄の皮膜として形成されます。誘電体は容量だけでなく、耐電圧ともれ電流特性に大きく影響し、アルミ電解コンデンサの信頼性に直結します。アルミニウムの陽極酸化皮膜は、酸性(あるいは塩基性)溶液中で生じる多孔質皮膜と、中性電解質浴液中で生成するバリヤー型皮膜とに大別されますが、アルミ電解コンデンサでは後者が使われています*39

図15 アルミ電解コンデンサの素子の構造
図15
アルミ電解コンデンサの素子の構造

図16は、誘電体の層の断面模式図です。アルミニウム箔の上には、アモルファス(非晶質)酸化アルミニウムの層があり、次に結晶性の酸化アルミニウムの層が積み重なり、最表面には水和酸化物(水酸化アルミニウム)の層があります*40, *41, *42

図16 誘電体層の断面模式図
図16
誘電体層の断面模式図

アモルファス層には、結晶のような並進対称性がなく、分子は互いに緩く結合しておりほとんど相互作用がありません。このため、交流電流による電界の揺らぎによる発熱が少ない特長があります。結晶層の分子はより密に配置されて強く結合しているため、絶縁抵抗が高くもれ電流が小さい特長があります。水和層の分子は分極しやすく、比較的大きな損失を発生させます。高温になると、水和層から水分子が解離して層が脆弱化して、もれ電流が増加すると考えられます。

したがって、良質な誘電体層をつくるためには水和層を安定化させて、アモルファス層と結晶層を厚くする技術が重要です。当社は陽極箔と誘電体形成技術に優れた特長を持っています。

もれ電流の規格値と実力値

当社ではJIS C 5101-4:2019 (IEC 60384-4:2016)に準拠した規格を適用しています。表5に当社アルミ電解コンデンサのもれ電流の規格値の例を示します。

表5 当社アルミ電解コンデンサのもれ電流の規格値の例
表5 当社アルミ電解コンデンサのもれ電流の規格値の例

もれ電流は、20℃で定格電圧を印加して5分後の電流を測定します。しかし容量が大きいものや定格電圧の高いコンデンサは、5分後でも吸収電流が流れ続けるため一定にはなりません。すなわち、もれ電流の規格値は純粋なもれ電流ではなく吸収電流を含んだ値です。

もれ電流の規格値は原則として容量と電圧の積に係数を乗じた値が適用されます。この係数は式(11)の定数 k と考えてよく、単位は μA / (μF×V) となります。

工業製品であるコンデンサのもれ電流にはバラツキがあります。このためもれ電流の規格値は、経済性を考慮して実際の値に対して余裕度を持って設定されています。余裕度は品種によって異なりますが、概ね規格値の1/10~1/100です。

注意したい事柄

アルミ電解コンデンサのもれ電流の主な原因は誘電体の欠陥です。ただし欠陥には、製造上の損傷(箔の切断、タブの圧着接続)、結晶中のさまざまな格子欠陥、アルミニウム基材層中の異種原子の存在、機械的ストレス(巻取りによる)、電解液中への酸化膜の部分溶解などのさまざまな要因があります。

図4bに示したように、アルミ電解コンデンサを充電したときに流れる電流は、電圧印加直後にほぼ指数関数的に減少し、誘電吸収を経て、最終的にほぼ一定の値のもれ電流が現れます。管理されたプロセスで製造されたコンデンサであれば、バイパス電流*43やトンネル効果*44がもれ電流に及ぼす影響は無視できます。

これまでに述べてきたようにアルミ電解コンデンサのもれ電流は、時間、印加電圧の大きさ、温度に依存しますが、ご使用いただく上でさらに注意が必要な事柄があります。

逆電圧ともれ電流

アルミ電解コンデンサは有極性ですので、逆電圧を印加することはできません。逆電圧、すなわち電解液の陰極が順電圧、誘電体層が負電圧を印加すると、誘電体層に集められた水素イオンはプロトン電流として層を通過し、層と金属層の境界に至り水素ガスに変換されます(図17) 。この水素ガスの膨張力で誘電体層が剥がれ落ち、電解液が分解した後、コンデンサに電流が流れてコンデンサは故障します*45

このため、逆電圧を印加すると大きなもれ電流が流れ続けて、コンデンサ内部でガスが発生し圧力が上昇して、圧力弁が開裂し故障することがあります(図18) 。

図17 誘電体層の断面模式図
図17
誘電体層の断面模式図
図18 逆電圧印加による圧力弁の開裂
図18
逆電圧印加による圧力弁の開裂

アルミ電解コンデンサが許容する逆電圧は非常に小さく、電解液を使ったものでは数ボルト程度です。JIS C 5101-4:2019 (IEC 60384-4:2016)で定められている逆電圧試験の条件は、 カテゴリ上限温度で1Vです(条件A; 試験時間125時間)*46です。

保管について(無負荷放置)

アルミ電解コンデンサは無負荷で(直流電圧をかけずに)長期間保管すると、もれ電流が大きくなる性質があります。この性質は保管温度が高いほど顕著に現れます。このため保守部品として長期間保管していたアルミ電解コンデンサを使用する場合には注意が必要です。

図19 コンデンサの保管(イメージ)
図19
コンデンサの保管(イメージ)

これは、高温で誘電体の酸化皮膜の絶縁性が低下するためと考えられており、この状態で電圧を印加するともれ電流が大きくなるのです*47。また、メーカから納入直後のものであっても、輸送に長期間を要したものにも同様の注意が必要です。有機溶剤系電解液を使用した低圧コンデンサ(定格電圧100Vまで)は通常非常に安定していますが、エチレングリコール系電解液を使用した高圧コンデンサ(定格電圧160Vから)、特に水系電解液を使用したいわゆる「低ESR仕様」のコンデンサにはもれ電流の増加が見られることがあります。

特に指定のない限り当社のアルミ電解コンデンサは、+5 ℃から+35 ℃、相対湿度75%以下で3年間無電圧で保管できます*48 。この期間内であれば、コンデンサを保管場所から取り出した後、そのまま定格電圧で使用することができます。図3-20は当社ネジ端子形アルミ電解コンデンサの長期保管後のもれ電流変化を調査した結果です。品種・定格によらず、もれ電流は2~3倍程度増加しています。

図20 長期保管(約3年)の当社コンデンサのもれ電流の変化
図20
長期保管(約3年)の当社コンデンサのもれ電流の変化

コンデンサ・バンクにおける電圧バランシング

パワーエレクトロニクスにおいて、コンバータとインバータを繋ぐDC電圧リンク は400/500 Vの三相電源に接続されます。例えばACドライブシステム(図21)、溶接コンバータ、通信機器用スイッチングモード電源などです。これらのアプリケーションでは、2つのアルミ電解コンデンサが分圧抵抗とともに直列に配置されています。直列に接続する理由は、コンバータのDCリンク電圧レベルが一般的に500〜800Vであるのに対し、アルミ電解コンデンサの最大定格電圧が500~600Vまでしかなく単一のコンデンサで設計することが難しいためです。

図21 2つの電解コンデンサを直列接続したACドライブシステム 三相電力変換器の回路トポロジー
図21
2つの電解コンデンサを直列接続したACドライブシステム
三相電力変換器の回路トポロジー

コンデンサの直列接続において、個々のコンデンサにかかる電圧はコンデンサの絶縁抵抗の比(またはコンデンサのもれ電流の比)に応じて分割されます*49。しかし分割した電圧のバランスが不均一であると、機器全体の効率が低下し、コンデンサの寿命が短くなります*50。このため、電圧を均等に分割することが重要です。分圧抵抗の抵抗値を最適化したり、抵抗器を通る電流がもれ電流の数倍を超えるように設計する必要があり、近年、このような課題を解決する技術が報告されています(図22)*51

図22 中間点電圧UMidを安定させ損失を改善した電圧バランシング回路
図22
中間点電圧UMidを安定させ損失を改善した電圧バランシング回路*51

一方でアルミ電解コンデンサのもれ電流は、動作条件や経年変化によって変化するため、同じ製造ロットのコンデンサを組み合わせたり、低もれ電流仕様のコンデンサを使用したりして、直列接続するコンデンサのもれ電流の偏差が小さくすることが有効です*52

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もれ電流のまとめ

コンデンサは、マイクロアンペア(μA)からミリアンペア(mA)程度の直流電流を通します。

  • もれ電流は、
    • 電荷の蓄積を阻害しエネルギーの損失の原因になります。
    • もれ電流の大きさは、誘電体の組成や欠陥、時間・電圧・温度などに影響を受けます。
    • 通常(常温かつ短い充電時間)では、吸収電流との合成電流として観測されます
    • コンデンサの信頼性だけでなく、誘電吸収やセルフヒーリングなどにも影響します。
  • アルミ電解コンデンサのもれ電流の特徴は、
    • 誘電体である酸化皮膜の物性に大きく依存します。
    • 酸化皮膜を形成するプロセスを適切に制御することで、もれ電流を最適化することができます。
    • 逆電圧を印加すると大きなもれ電流が流れ続けて、故障に至ります。
    • 電圧を印加せず放置するともれ電流は大きくなります。
    • もれ電流にはバラツキがあるため直列接続して使う場合には注意が必要です。
  • 本章で述べたもれ電流のモデルや適用性は、使用条件、品種、アプリケーションによって異なります。このため、もれ電流の大きさが機器の性能に大きく影響するアプリケーションでは、コンデンサメーカーによるカウンセリングをお薦めします。

おわりに

コンデンサには誘電体によって様々な種類と特性があり、デジタル回路にもアナログ回路にも使われる必要不可欠なデバイスです。

それぞれのコンデンサがもっている特徴的な性質や性能、たとえば動作電圧、静電容量、損失や周波数応答性、もれ電流、デバイスサイズ、周波数応答性などを考慮いただくととで、お客様はアプリケーションに最適なコンデンサを選択できます。

ただし実際のコンデンサは容量だけをもつ理想的な部品ではありません。容量に対して直列の抵抗とインダクタンス、および容量に並列な抵抗などが寄生しています。これらは損失を生じる原因になります。

このため、このレポートではコンデンサの性能で最も基本的で重要な特性である容量・インピーダンス・もれ電流を解説しました。

当社は、誘電体の性能・コンデンサの構造・製造技術など向上させて、小型で損失が小さく、信頼性の高い製品を提供し続けています。同時にお客様には、アプリケーションの要件に適合した品質と信頼性をもつコンデンサを適切にお選びいただき、安全設計及び安全対策、事前の十分な評価をお願いしています。

このレポートが、お客さまのコンデンサの選定、アプリケーションの機能向上、メンテナンスなどにお役に立てば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご不明の点がございましたら、ぜひ当社までお問い合わせください。


監修/飯田 和幸
エーアイシーテック株式会社 ゼネラルアドバイザー

1956年埼玉県生まれ。
日立化成株式会社、日立エーアイシー株式会社にてコンデンサの製品開発と高機能化、コンデンサ用の金属材料や有機材料開発、マーケティング業務に従事。
広報誌、業界誌、各種便覧等にコンデンサに関する記事を寄稿。
2005年から2015年まで株式会社 日立製作所 技術研修所でコンデンサの使い方に関する講座を担当。
2020年よりエーアイシーテック株式会社 ゼネラルアドバイザー。

【主な寄稿・登壇実績】
  • 「タンタル電解キャパシタ」
    電気化学会編 丸善 電気化学便覧 第5版 15章 キャパシタ 15.2.4節 b (1998)
  • 「タンタル・ニオブコンデンサの開発動向と材料技術」
    技術情報協会セミナー 2008年6月
  • 「鉛フリー対応表面実装形フィルムコンデンサ MMX-EC, MML-ECシリーズ」
    日立化成テクニカルレポート 48号 製品紹介 (2007)
  • 「電子機器用フィルムキャパシタ」
    丸善 キャパシタ便覧 第5版 5章 フィルムキャパシタ 5.2項 (2009)
  • 「新エネルギー用大型フィルムコンデンサMLCシリーズ」
    新神戸電機株式会社 新神戸テクニカルレポート 22号(2012)